マリーはアレキサンダーと一緒にいることが楽しくてしかたがありませんでした。
彼はどんなときも、とても楽しい人でした。2人で新しい「遊び方」を発明して(それが2人だけの悪ふざけであったとしても)、それに夢中になったりして・・・。
あるジャーナリストがマリーにこんな質問をしたことがあります。「あなたは、ご主人のアレキサンダーにどこを一番評価されたいですか?」と。これに対してマリーは、何のためらいもなく答えました。「I hope in bed」・・・。こんなマリーを、アレキサンダーは愛していました。学生だったころから、世界が注目するトップ・デザイナーになった今に至るまで・・・ず~っと。
「彼女にとっては、ファッションがすべてではない。でも、デザインすることが、彼女の若さを保つ秘訣だし、彼女の魅力」・・・彼ほどマリーのことを深く理解している人は、他にいませんでした。
マリーとアレキサンダーの平穏な生活に、大きな変化が訪れたのは、'88年のことでした。少し前から、体調を崩していたアレキサンダーが、仕事から引退すると言い出したのです。彼は、自分に残された時間を、最大限、マリーと共有したい・・・そう、考えたのです。マリーは、何を犠牲にしても、彼が元気になってさえくれたら・・・と、快く受け入れました。その結果、事業のすべてを失うようなことになっても・・・と。
以来、マリーは、彼と共に過ごすプライベートな時間を最優先に考えるようになりました。
でもマリーの願いは叶いませんでした。
1990年5月、最愛の夫・・・アレキサンダーはこの世を去りました。マリーは、胸にぽっかり穴が空いてしまったような寂しさをどうすることもできませんでした。何をしても、「こんなとき、彼がいたら・・・」と考えてしまう自分をもてあます毎日でした。
マリーはかけがえのない伴侶との永遠の別れを、長い間、事実として受け入れることができずにいました。