マリーにとって二番目のブティック、「バザー」ナイツブリッジ店がオープンしました。
その翌朝のことです。「ヴォーグ」誌に勤めるクレアが店に駆け込んできました。クレアは、素晴らしい才能をもったファッション・ジャーナリストです。店をひととおり見た彼女は、「第二のバザー」のオープンをなぜジャーナリストにアピールしないのか、と詰め寄りました。もちろん、「バザー」のようなファッション店をオープンするとき、オープン前に記者発表することが常識なのはマリーも知っていました。
でもキングス・ロードにはじめて「バザー」をオープンしたとき、招待状を出したにもかかわらず誰も取りあげてくれなかった経験から、今回はなんにも手を打っていなかったのです。クレアはそんなマリーを叱咤激励すると同時に、めぼしいジャーナリストたちをピックアップしてくれました。その熱意にマリーも感激。プレス・ショーに全力投球することを決心しました。
ショーはマリーが自分のデザインを最もアピールできると思う「動き」と「スピード」を強調することにしました。ミニスカートに深いブーツ、毛皮をふんだんに使ったノーフォーク・ジャケットなど40着を14分で見せるという趣向でした。この大胆なプレス・ショーに最初はとまどっていた記者たちでしたが、ショーが終わる頃にはすっかり魅せられてしまっていました。
取材の申し入れが殺到したことは言うまでもありません。この「バザー」ナイツブリッジ店のオープンがきっかけになって、マリーのデザインは広くジャーナリストたちに取り上げられるようになりました。
それにつれて、マリーはますます忙しくなりました。
そんな彼女の片腕として活躍してくれたのが「バザー」キングス・ロード店をオープンしたときに、はじめて雇い入れたスージーでした。スージーは見たこともないほどキレイな女の子でした。
彼女の才能は、マリーの服を見ただけで、そのデザインの意図をくみ取って、どう着こなせばいいのか、すぐ理解できること。マリーの最初の頃の作品は着るのがためらわれるくらい斬新なものが多かったのですが、店にいるスージーの着こなしを見ると、みんな争うように同じものを買っていくのです。
しかも服だけでなく「ルック」としての一揃いを・・・。
ナイツブリッジ店ができてからは、スージーがこの店の担当になり、8人の女の子が彼女の下で働くようになりました。彼女たちは、「バザー」ナイツブリッジ店の成功に大きく貢献してくれただけでなく、ともすると精神的に疲れ果ててしまいそうなマリーを元気づけてくれる貴重な存在でした。
そんなある日、マリーにとって衝撃的な事件が起こりました。