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EPISODE 7:ファッションについて

マリーにとってはじめての海外でのファッション・ショーは、緊張と興奮の連続でした。

観客の反応はマリーのデビューをいかに待ち望んでいたかを証明していました。

この成功は大きな自信になりました。と同時に、マリーは「バザー」を早く拡張しなければという思いを一層強くしました。なぜなら「バザー」に入りきれないファンが、いつも長蛇の列をつくっていたからです。もうひとつ「バザー」を・・・というアイデアは共同経営者であるアレキサンダーやアーチーとも一致していました。

その頃・・・´50年代半ば頃のイギリスはというと、不況のまっただ中。財界の人たちは皆、新規事業を手控えていた時期でした。これが、マリーたちに幸いしました。望み通りのナイツブリッジに、理想以上の物件が見つかりました。それもべらぼうに安い家賃で・・・。即、契約。改装にとりかかりました。

そして、「第二バザー」オープンの日取りも決まったある日、アレキサンダーがマリーに言いました。

「さぁ、いよいよ結婚するか」と。

マリーとアレキサンダーはカレッジで出逢った16歳の時から23歳のこの日まで、共に成長してきました。気心も知れているし、何よりアレキサンダーと一緒にいるとマリーは幸せでした。でも、一緒にいることが当たり前になってしまっていて、形式的な「結婚」ということをマリーはすっかり忘れていたのです。

彼がくれた結婚指輪は、マリーの好きな幅が広いプレーンなデザイン。ハネムーンはスペインのイビザ海岸を選びました。イビザの太陽と海は、マリーの頭の中をキレイに整理してくれました。それまで、「好き」という思いだけで関わってきた「ファッション」というものの価値を、改めて考えるいい機会でした。

ファッションの価値を定義づけするのは、とてもむずかしいことです。でも、つきつめて考えれば、「人にとってファッションとは生きることそのものの一部」だというのがマリーの結論でした。ファッションは、それを身につける人と共に「生きているべきもの」であって、その人を引き立て、その人を表現できるものでなければならないと。「自分の個性を知った上で、ファッションでそれを強調できる人のためにこそ、私の服はある」とマリーは思いました。

「第二のバザー」の改装は順調に進んでいます。このハネムーンから帰ったら、いよいよオープンです。

マリーはまたひとつ、階段を登ろうとしていました。

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