ある日、海の向こうのニューオリンズにある「メゾン・ブランシュ」百貨店から、マリーにレックス賞が贈られることになりました。
レックス賞は年に一度、ヨーロッパの主要国からトップデザイナーを選んで表彰してくれるというものでした。最初の予定では、アレキサンダーと同行するつもりでいたマリーでしたが、ひょんなことから彼がニューヨークで足止めをくってしまい、ひとりで行くはめになってしまいました。
2日間のリハーサルを終えていよいよ受賞者たちのショーがはじまりました。ランバンをはじめとした他の受賞者たちのまばゆいばかりのイブニングドレスの中で、マリーの余りにも若いドレスはお門違いのようにマリー自身にも感じられました。しかも観客はお金持ちのご婦人ばかり。彼女のショーがはじまると、観客たちは開いた口がふさがらないくらい驚きました。マリーの作品そのものだけでなく、テンポの早いビートのきいた演出方法にあっけにとられたようでした。
翌朝の新聞はショーの記事で埋め尽くされていました。マリーのショーも大好評でした。マリーはせっかくここまで来たのだからと、「メゾン・ブラッシュ」百貨店をのぞきに行くことにしました。
マリーが意外に思ったのは、彼女のドレスがクチュール売場に並べられていたこと。でも、それより何よりマリーを驚かせたのは、その売場が3~400人ものティーンエイジャーたちでごったがえしていたことです。
いつもはもっと静まりかえっているはずの売場・・・店員たちも突然の大混乱にヘトヘトになっていました。マリーも若い女の子たちに質問責めにあいました。「どんな色をあわせたらいいの?」「私はどのスタイルに決めたらいい?」等々。果ては「このドレスにはどんな化粧方法がいいのか?」まで。確かにひとつのルックの完成という意味では、化粧法もドレスと一緒に変化させるべきもの。とてもいい質問だナ・・・とマリーも思いました。(その頃はまだマリーブランドのコスメは創られていませんでした。ひょっとしたら、このことがコスメを生みだすきっかけになったのかも知れません。)
百貨店からやっとの思いで抜け出してきたマリーはショーで使ったドレスをひとりで梱包しはじめました。
次のモントリオールでのショーのためにカナダへ送り込まなければならなかったからです。アレキサンダーが書いてくれたマニュアルと首っ引きで、2度も3度もチェックしてやっと送り出しました。彼に言われたとおり、しなければならないことはちゃんとしました。
「これで大丈夫。事故なんて起こるはずもない・・・。」その時、マリーはそう確信していたのです。でも・・・・・・。