アメリカでの大仕事を成功させたマリー。
彼女の次のチャレンジはパリでのコレクション発表でした。さすがのマリーもはじめての「パリ」ということで、いつもよりウンと緊張していました。
今回マリーが考えたのは、「ウェット・ルック」と名付けたポリ・ビニールを素材にした一連の作品。
ポリ・ビニールなんて、それまでファッション界では誰も使ったことのない素材でした。ショーのために予約したのは、パリの一流ホテル「クリヨン」。
盛大なショーをやるにはうってつけと思ったのですが、来てみると、大理石の壁や豪華なシャンデリアなどマリーの今回の大胆な作品とはどうも不釣りあいでした。
マリーは覚悟を決めました。
売れる売れないの価値基準は二の次。新しい試みや目をむくような大胆なことを自由奔放にやって、デザイナーとして愉しんでしまおう・・・と。
マリーのショーの前日にロンドンのオートクチュールの合同ショーが開催されることもあって、各国からファッション界の重要人物やトップバイヤー、有名なジャーナリストがパリに集まっていました。そのお陰で、予想以上の人たちがマリーのショーを見に来てくれたのです。会場につめかけた人たちの顔ぶれにマリーの緊張感は高まるばかり。その上、ショーがはじまる前のブレイクにと、シャンパンをサービスして歩いたのですが、誰も手をつけようともしません。さっさと席について、ショーがはじまるのを待っています。マリーはもうコチコチでした。
いよいよ、ショーがはじまりました。ショーはいつものマリー独特のやり方で演出されていました。バックのジャズにのってものすごいスピードで、次から次へ。60着のドレスやスーツを15分フラットで見せる早さでした。モデルたちはさすがにプロ。緊張のひとかけらも表面に出さずハウンドドッグのようにはね回り、階段を駆け下りてきます。いつものように元気いっぱい、のびのびと。しかも全員が写真モデルというだけあって、静止したときのポーズが断然キレイでした。
・・・激しいスピードのショーが終わりました。
しかし、次の瞬間、場内をおおったのはしんとした無言の時間でした。物音ひとつせず、誰ひとり身じろぎもしない・・・。ふと誰かが立ち上がると、つられるように1人2人、何か小声でヒソヒソ話しながらゾロゾロと会場を出ていってしまいました。
「完全な失敗」・・・そう思うしかありませんでした。
胸がしめつけられるような、真っ暗な気持ちでした。
ところが、どうでしょう。
一夜あけると、ホテルの電話は鳴りっぱなし。誰もが熱狂的にほめちぎり、コレクションの特集を提案してきたのです。まったく思いもかけない展開でした。特にフランスのジャーナリストの熱狂ぶりは大変なものでした。そして、この成功によってマリーにビッグな贈り物が届けられたのです。