カレッジでの3年間はマリーの人生を大きく変えてしまいました。きっかけとなったのは、同じ歳のアレキサンダーという少年との出会いでした。(後にマリーは「アレキサンダーを見たとき私の人生がはじまった。」と回想しています。)彼によってマリーは今までとはまるで違う「生き方」があることを知りました。
既成の考え方にとらわれず、自由に発想し、のびのびと行動する素晴らしさを発見したのです。
クリスマスの仮装舞踏会でマリーの存在に気づいた彼。ひとたび言葉を交わした二人は、たちまち意気投合。それからは何をするのも一緒でした。彼の悪ふざけや乱痴気騒ぎのアイデアは、いつもマリーを夢中にさせました。
最高級のレストランで豪華な食事をしているかと思えば、その後は文無し同然の生活。退廃的で無計画といってしまえばそれまでですが、マリーには彼ほど変わっていて、世知に長けていて、大人で、一緒にいて面白い人物は他にいないとさえ思えました。
やがて卒業。でもマリーの3年間の学生生活は、両親との仲を険悪なものにしていました。
両親との約束だった美術の教員免許も結局とることができませんでした。家からの独立はマリーの切実な願いでしたが、お金のない彼女は、まず仕事を見つけなければなりません。
やっと見つけた仕事場が、ブルックストリートにあるエリック帽子店です。週給わずか2ポンド10シリング(約1,800円)。でも、マリーは仕事がおもしろくていつも7時を過ぎるまで帽子を作り続けていました。
アレキサンダーもカメラマンの仕事にありついていましたがほんの名ばかり。
二人にとってこの頃が一番苦しい時期でした。
時間はあってもその時間を愉快に過ごす軍資金がない毎日。そのクセ、相も変わらずお金が入ると贅沢をして、その後は餓死寸前・・・、学生時代と変わりばえのしない生活でした。
でも、いろんな悪ふざけにもそろそろ飽きはじめていることに二人は気づいていました。
この頃、マリーたちが通いつめていたのが、当時ロンドンではまだ珍しかったコーヒーハウス「フィンチ」です。フィンチには二人と同じような感性を持った若い建築家や作家、映画監督、音楽家などがいつもたむろしていました。
そこには古い因襲や型にはまった考え方から脱皮して自分たちの手で新しいものを創り出したいという情熱があふれていました。いつからか二人も「何か新しいことをしたい」という、つきあげてくるような思いにとらわれるようになっていました。
そんなとき、思いもかけないチャンスがやってきたのです。