うんと小さい頃から「お裁縫」が大好きだったマリー。一番の楽しみは、自分が着たいと思う服を縫い上げることでした。
買ってもらった洋服を自分好みに作り替えるなんていうのも、彼女にとってはお手のもの。中でも傑作は、ギンガムのドレスを作り替えた通学服。丈をめいっぱい短くして、スカートにフレアーをいっぱい出したスタイル。それに男の子の白いニーソックスを合わせる・・・・・・マリーならではのセンス。
もちろんクラスメートたちの羨望の的。彼女にとって、この頃の人生最大の関心事はファッションでした。将来の夢はもちろんファッション関係の仕事につくこと。だから、カレッジを決める時も「将来のための基礎勉強」にと絵画科を志望したのです。
でも、大変な努力をして教師の地位を獲得した両親は猛反対。両親は将来の安定した生活を保証してくれる資格をとって、真面目に働き、自分たちよりも偉くなってほしいという大きな夢を彼女に託していたからです。マリーに言わせると「だから、判で押したような個性のない人間ができあがっちゃうのよ。オリジナリティをつぼみのうちにつみ取るようなものだと思わない?」となるのですが・・・。
とにかく、そんな両親を「奨学給費生の試験にパスすること」「美術の教員資格を取ること」で説き伏せた彼女は晴れてロンドンの南東にあるゴールド・スミス・カレッジの絵画科に入学することができました。
ところが、そのカレッジでの3年間がマリーの人生を大きく変えてしまったのです。カレッジに通い初めて2~3ヶ月した頃、マリーは校内で一人の少年を見かけました。彼の名前はアレキサンダー。イラストを専攻している少年でした。
彼が登校するのは、いつも決まって午後遅く。それもやむを得ない事情があるときに限られていました。複雑な家庭の事情からチェルシーの大きな邸でひとり暮らしを余儀なくされていた彼は、いつもとても風変わりな、というより異様な身なりをしていました。
彼にはいつも熱烈な崇拝者のような大勢の取り巻きがいました。まるで大スターみたいに。
とにかく彼が学校にあらわれると誰もが気にしないではいられないほど。それは、マリーも同じでした。
でも、マリーには声をかけるチャンスも勇気もありません。いつも遠巻きに彼を見ていただけでした。
ところが、その年のクリスマスの仮装舞踏会がマリーに大きなチャンスを与えてくれたのです。
彼が・・・、アレキサンダーがマリーの存在に気づいてくれたのです。